縁があり、愛し合って一緒になった2人がかわいい赤ちゃんを授かりたいと希望されることは、ごく自然なことです。しかし妊娠は本人たちの意志だけで叶うものとは限りません。

なかなか赤ちゃんを授からない場合、様々な原因が考えられるのですが、すぐに「不妊症だ」と決めつけて自分やパートナーの生殖機能に何か異常があるのではないか?などとあまり神経質にならず、先ずは自分たちの生活に妊娠をはばむ要素がないかどうかを確認してみてください。

長期に渡る不妊治療に不安を抱いているカップルはとても多い

妊娠希望の相談依頼で私の薬局を訪れるカップルに聞くとその多くが、すでに以前から専門医による不妊治療を受けており、漫然と続く(という印象を本人たちは受けている)治療方針に一抹の不安を抱いたり、毎回かかる治療費が大きな負担になってしまっていると言われます。

一般的な不妊外来で受けられる治療でかかる費用

  • タイミング法(1万5千円程度)
  • 人工授精(1万5千~4万円程度)
  • 体外受精(30万円前後が一般的)
  • 顕微授精(30万~45万円)

概ねこのような順番で高度な治療へと移ります。また女性不妊症(※1)、男性不妊症(※2)といった個々の原因別の治療が必要な場合は別途費用がかかります。

(2013年10月現在 筆者調べ)

実は不妊は特に珍しいことではありません。もしも長い間、赤ちゃんを待ち焦がれて不安やストレスを抱えているならば一度立ち止まって、「不妊」についてもう一度2人で確認をしてしてみることも有用です。

避妊をしないで赤ちゃんができる割合は通常、結婚1年以内で70~80%、2年以内で80~90%といわれていますが、これに当てはまっていなくてもがっかりしないで下さい。日本では妊娠を希望するカップルの10組に1組(=1割もの人達)が不妊で悩んでいるといわれています。

しかしいざ詳しく話を伺うと漢方薬などの説明以前に、2人の生活習慣や妊娠に対する気構えにいくつかの問題点があり、これらを徹底的に見直しただけであっけなく妊娠した!…というカップルを何組も見て来ました。

やれ不妊外来だ、漢方薬だと慌てる前に、もしかしたら出来る事は沢山あるかもしれないということを是非知っておいて下さい。以下に確認するべき項目を書き出します。

妊娠をはばむ要素(男女共通)

【1】外食が多い
【2】食事のメニューにファストフードやインスタント食品、脂ものが多い
【3】嫌いな食べ物が多い(偏食)
【4】お酒の量が多い
【5】タバコを吸う
【6】肥満がある、または短い期間で急に太った
【7】生活が不規則
【8】睡眠時間が少ない
【9】ストレスを上手に発散出来ていない
【10】薬を常用している
【11】性生活が極端に少ない
【12】妊娠しないことに焦りを感じている
【13】不妊について2人で話す機会が少ない

いくつ当てはまりました?各項目について解説です

【1,2,3】一般的に妊娠を希望する世代は、ちょうど働き盛りで仕事をバリバリとこなす世代です。また近年は女性が社会で活躍する場面も増えて共働きの世帯も多く見られます。多忙にかまけてついつい食生活が乱れがちですが、食事こそが健康の源です。元気な赤ちゃんを迎えるためには、何より親となる2人は絶対に健康的な食生活を送らなくてはいけません。

また栄養補給だけでなく、精子の生産・活性化を高めるためにもビタミンやミネラルを多くの食材から摂るのが一番ですので、好き嫌いをせず旬の素材とともに何でも美味しく頂くようにしましょう。

【4】血行を良くし、肉体的にも精神的にもリラックスさせてくれるお酒は、いわゆる「百薬の長」…ではありますが、これは適量を守ることで初めて言えること。医学的にはアルコールの適量は週に1~2回、1回あたり1~2ドリンク(※3)までが望ましいとされています。またお酒を飲む時は空腹時を避けて一品でも料理を添えたり、休肝日を設けたりする工夫をします。もちろん妊娠後~卒乳までの期間の飲酒は控えましょう。

【5】女性の場合、喫煙により子宮内膜への血流が悪化するため着床しにくくなります。また卵巣内の卵子の数を減少させることや、喫煙者が非喫煙者と比べて、閉経を迎える時期が1~4年も早まったという報告もあります。またニコチンは血管を収縮させて血液の送りこみを悪くします。男性も女性と同様に精巣への新鮮な酸素や栄養の供給が低下して精子の質や量が減少する可能性が高くなります。ちなみに喫煙中からしばらくの間は副流煙だけでなく有害な化学物質がオーラのように喫煙者の身を包んでいる状態なので、しばらくの間パートナーに近寄らないことがマナー。

【6】男女ともに肥満は妊娠には大変不利です。女性は性腺刺激ホルモンの分泌バランスが崩れて無排卵になる可能性があり、また中性脂肪の増加で血流が悪くなることで、タバコの害と同様、子宮内膜や男性の精巣機能低下も懸念されます。放置すれば代謝が落ち、動脈硬化等の生活習慣病(メタボリックシンドローム)にも繋がっていきますので、軽く見ずに早めの対策をお勧めします。

【7,8】個人差はありますが、夜10時から深夜2時頃は「休息の神経」と呼ばれる副交感神経が優位になって体が最もリラックス出来る状態となります。細胞分裂が活発になるので、体力の回復や生殖(動物が子孫を残す)活動を行うための非常に大事な時間帯といえますので、ここに睡眠時間を確保して生活のリズムを作ることが出来ると理想的です。

【9】肉体的・精神的を問わず、「ストレス」を受けるとストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールや、アドレナリン、ノルアドレナリンが体内で分泌され血中に流れます。するとこの分泌と代謝(分解)の過程で活性酸素が増えるのですが、ストレスを常に感じていると、活性酸素が過剰になり血管壁の内側を傷つけることで血流が悪化したり、性腺刺激ホルモンの分泌に悪影響を及ぼします。

【10】持病があり、主治医の指示通りに服用している薬がある場合は仕方ありませんし、基本的には問題もないかと思いますが、どんな薬でも代謝・排泄される際には肝臓や腎臓に大きな負担がかかることを覚えておきましょう。全精力を妊娠のために注ぎたいという時期くらいは、「薬の処理」という余計な仕事を体にさせないように心がけたいものです。

【11】妊娠の可能性を高めるのに最も有効な手段の一つが夫婦生活の回数を増やすことです。回数が多ければ良いというわけでは無いかと思いがちですが、意外なことに乏精子症の男性不妊患者では、毎日射精した方が精子濃度や運動率が良好だったり、DNAの損傷度が高い男性不妊患者が一週間続けて毎日射精することで精子のDNA損傷率が低下し、精子の質が高くなったという研究報告があります。

またアメリカで221組のカップルを対象にセックスの頻度と周期あたりの妊娠率を調べた実験では、頻度が毎日であれば37%で、隔日では33%、週に1回になると15%に低下したという結果が出ています。つまりセックスの頻度が高くなり、禁欲期間が短いほど男性の精子の質が高くなり妊娠率も高くなったのです。

具体的には排卵日の関係で、生理が終わった後1週間~10日間は、週3回程度を目安にコンスタントに夫婦生活の機会をもつと妊娠しやすいといえるでしょう。

【12,13】ストレスのほとんどは自ら作り出しています。「今回ダメでも次がある」と気長に取り組みましょう。条件が揃えば赤ちゃんはお腹に入ります。周りの人の目や言うことも気にしてはいけません。パートナーと気兼ねなく話を出来る環境は作る必要がありますね。

大切なことはたった一つ

そもそも赤ちゃんは「授かるもの」で「つくるもの」ではありません。いつの間にか「子づくり」のためだけのセックスや治療がまるで義務のようになったり、そのことでお互いが気まずい思いをして、本当の不妊症になったりしたら本末転倒です。

『たまにはゆっくりと休暇を取って、近場で構わないから温泉にでも一泊以上のんびりとする。特に毎日家事に追われている女性は「上げ膳据え膳」で、慌しい日常から完全に解放される時間を贅沢にとると良い。そしてテーマを赤ちゃんの事に限ったりせず、2人で色々な話をしてみたら?』私はよくそんなことを提案しています。

余計なことを考えず、パートナーとの生活を心から楽しむこと。その上で先のチェックリストに該当項目があったならば、それらを一つでも減らせるよう意識することを、今から始めてみると案外早くに「待ち人来たる」かもしれません。

不妊治療に関連する記事は以下も参考にしてください。

※1 女性不妊症:排卵障害、卵管障害、頸管障害、着床障害…など。
※2 男性不妊症:造精機能障害、精子輸送路通過障害、精索静脈瘤、性機能障害…など。
※3 飲酒量の単位:「1ドリンク」とはビールなら250ml、ワインなら100mlが目安。

山浦卓 漢方サント薬局 薬剤師 医学博士

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