2017.06.24学会・イベントなど参加レポート
2017年6月23日開催「第4回 日本黒酢研究会」に参加しました
日本黒酢研究会の第4回学術集会が昨日開催され、今年も漢方サント薬局を代表して、薬局長の山浦卓が参加して来ました。
過去の学術研究会の様子はこちら。
第1回学術集会の模様はこちらにありました。(別窓表示)
〜第4回学術研究会〜
日時:2017年6月23日(金)13:00〜16:25
会場:日比谷コンベンションホール
開会の挨拶
早稲田大学研究院 教授で、日本黒酢研究会会長の矢澤一良先生が開会の宣言を。
「黒酢の科学的エビデンスに基づく基礎研究・臨床研究を本研究会を通じて加速することで、健康増進、罹患リスクの低減、疾病予防に寄与していきたい」とのお考えに賛同しました。
<招待講演Ⅰ>機能性表示食品の可能性と限界
株式会社グローバルニュートリショングループ 代表 武田猛先生によるご講演。座長は常葉大学 健康科学部 教授の久保明先生。
2015年にスタートした機能性表示食品制度の現状を分析されたお話。実際に市場にどのような変化があったのか、消費者調査結果などから、一部の成分への集中、機能性表示の広がり、科学的根拠の範囲など、限界や課題も見えてきました。
黒酢および黒酢もろみによる血栓症予防の可能性の検討
帝京大学薬学部 准教授 大藏直樹先生によるご講演。座長は北海道医療大学 薬学部 教授の柴山良彦先生。
血管が傷害を受けると、その部位で血液の一部が固まって血栓が生じ出血を抑えます。
正常なレベルでは問題ないが、生活習慣病や炎症、ストレスなどが原因で血液成分の変化や血管壁の障害が起こると、血栓が過剰に生じやすくなります。
そして生じた血栓が血管内で詰まると、血液の流れが滞り、組織の一部が破壊されたり、機能障害をおこして、脳梗塞、心筋梗塞、肺塞栓など重篤な血栓症が発現することが少なくありません。
血栓症を引き起こす血液凝固の調節機構、血栓症の危険因子(血管壁の変化、血流の変化、血液成分の変化)のどのポイントに黒酢または黒酢もろみが、どのように影響するのかしないのかを検討されました。
- 黒酢もろみには血小板凝集を抑制する物質が含まれる可能性がある。
- 黒酢中には血液凝固反応を抑制する可能性をもつ物質が含まれているかもしれない。
- 黒酢や黒酢もろみ末の摂取はPAI-1(plasminogen activator inhibitor-1)の上昇を抑制する可能性がある。
引き続き、黒酢やもろみ原末の摂取による血栓症予防の可能性や、それらに含まれる抗血栓性物質についての検討を進めたいとの由。
黒酢のアレルギー症状緩和効果に関する研究
愛媛大学 農学部 教授 菅原卓也によるご講演。座長は鹿児島大学 農学部 食料生命科学科 食品分子機能学 教授 候徳興先生。
アレルギー性の皮膚炎モデルマウスと花粉症モデルマウスに対する黒酢の抗アレルギー効果、特に好塩基球に対する脱顆粒抑制効果について検討された研究です。
- 黒酢は細胞の生存率に影響せず、脱顆粒を抑制した。
- 黒酢に含まれる脱顆粒抑制物質は熱に安定で、非タンパク質性の物質であり、分子量は3.5kDa以上であった。
- 黒酢は生体内での脱顆粒を抑制した。
- 黒酢はスギ花粉症の症状を緩和した。
- 黒酢はTh2の活性を抑制することで、Th1/Th2バランスを改善している可能性が推察された。
黒酢摂取が持続的トレーニングの効果に与える影響
東京大学大学院 総合文化研究科 教授 八田秀雄先生によるご講演。座長は鹿屋体育大学 体育学部 講師 長島未央子先生。
黒酢摂取がマウスの安静時や運動時のエネルギー代謝に与える影響について、運動科学の観点からそれぞれのタイミングでの糖代謝と脂質代謝を中心に、持久的トレーニングの効果に与える影響も含めて検討された報告でした。
- 黒酢の単回投与では大きな影響は認められなかった。
- 高脂肪食を摂取させた長期の条件では、メスのマウスにおいてトレーニングと黒酢の併用で内臓脂肪が低下する傾向や、運動時の血中グルコース濃度が抑えられる傾向が観察された。
- 黒酢と持久的トレーニングを併用する場合の効果は、必ずしもこの条件では大きくないことが考えられるが、一方である程度、糖代謝や脂質代謝に効果があることも示唆される。また性差もあることが示唆されたが、根拠となるメカニズムは不明である。
- スライドに間に合わなかったが、その後ミトコンドリア酵素活性が有意に上がった。
- 同じくその後の研究で、マウスの血中遊離脂肪酸の減少が確認された。
壺造り米黒酢摂取による体脂肪率増加抑制・血圧低下作用
鹿児島大学 共同獣医学部 分子病態学分野 准教授 叶内宏明先生によるご講演。座長は九州大学大学院 農学研究院 生物機能科学部門 教授 佐藤匡央先生。
叶内先生は、鹿児島県において伝統的な製法で醸造される壺造り米黒酢(黒酢)が強い肥満改善効果を持つかどうかを二重盲検ランダム比較平行試験で評価されました。
腹囲が男性で85cm、女性90cm未満、医師による診断で要医療の疾患を有しない者を対象としたヒト介入試験を行われました。被験物質は黒酢もしくは黒酢と同濃度の酢酸を含む醸造酢にカラメルと黒酢香料で風味付けした黒酢風酢。
14名を被験者とし、ランダムに黒酢群と黒酢風酢群に分け(黒酢風酢群:48±9歳、♂/♀=5/2、n=7;黒酢群:43±6歳、♂/♀=4/3、n=7)、介入期間は2015年7月26日から93日間、1日20mlの被験物質を摂取してもらいました。
【結果】黒酢による肥満改善効果は観察されなかった。しかし黒酢風味酢では介入前後の体脂肪率の増加が27.1±5.9 %から、28.0±6.0 %に増加傾向(p=0.095)が認められたのに対し、黒酢群では27.4±10.7%から、27.6±9.7%と増加傾向は認められなかった。
収縮期血圧は黒酢群の介入前後では135±15 mmHgから123±10 mmHgと低下傾向(p=0.085)が認められたのに対し、黒酢風酢群では135±8 mmHgから128±20 mmHgと低下傾向(p=0.51)は認められなかった。
【結論】黒酢摂取による肥満改善効果は認められなかったが、体脂肪率の増加を抑制する可能性と収縮期血圧を下げる可能性は示唆された。
<招待講演Ⅱ>科学と食と健康―週刊誌が指摘した機能性食品の効果と安全性―
公益財団 法人食の安全・安心財団 理事長/東京大学 名誉教授 唐木英明によるご講演。座長は会長の矢澤一良先生。
ある週刊誌が掲載した「トクホの大嘘」という特集記事に関して、多彩な見識と考察をもって論じられました。
週刊誌の指摘
- 科学の水準に達していない根拠論文があった
- 効果が小さい
- 安全性に問題がある
- そもそも機能性食品の役割とは?
唐木先生の各項への見解
- 週刊誌の指摘ではトクホの根拠論文の中にはプラセボ対照群を作らずに極少数の被験者で効果を判定するような論文があった。トクホ制度が始まった1991年当時は通用したかもしれないが、関連企業は古い根拠論文を見直すことが求められている。
- 効果は有無が重要で、大小は問題ではない。食品である限り効果が小さいのは当然で、小さな効果をどのように利用するのかを考えるべき。
- 当該特集では「人工甘味料」の安全性について疑義を述べているが、その根拠は、多量を摂取したときだけ見られる毒性が微量でも出現するかのように誤解していたり、すでに医学的な検証で否定されている事例をあたかも事実であるように強弁しているものであり、安全性はすでに証明されているものもあった。しかし自己判断での長期摂取には注意が必要である。
- 歴史を見ると、江戸時代までは効果も安全性も不明の民間薬しか無かった。明治政府は「有効無害」のものしか医薬品として認めず、証明されていない民間薬を厳しく取り締まった。しかし現在もなお人々は健康食品と名を変えた民間薬に頼り、神社仏閣に心の拠り所を求める。そんな心情がある限り規制だけではインチキ健康食品を排除できない。科学的根拠が示されていないインチキ健康食品を排除するためには、政府の規制と消費者の賢い選択と企業の倫理という三者の協力が必要である。
学会に参加して
今年の日本黒酢研究会も魅力的な演題ばかりで出かける前から期待に胸を膨らませての参加でした。
先生方の発表は示唆に富み、質疑応答もとても参考になりました。とりわけ唐木先生が講演後に仰った「今後は国民ひとりひとりの科学リテラシーを上げられるよう、教育をしていく必要がある」とのコメントがとても印象に残りました。
懇親会後、叶内先生をはじめ柴山先生、候先生のほか坂元醸造株式会社の長野専務、学術の藤井氏と共に虎ノ門の街へと繰り出し、さらに親睦を深めて参りました。コンパクトな学会ならではの親近感を堪能できます。
先生方から新しいアイデア、ヒントも得られて、また面白いことが出来そうです。具体的なカタチになれば、随時お知らせしていきます。
くろずについてはこちらの記事も参考にしてください
- 胃潰瘍・胃癌を心配する方からの質問:ピロリ菌と黒酢の関係は?
- 天然醸造酢が傷んだ胃腸を修復。中高年は毎日少量の飲酢が最良の健胃法
- あれも黒酢?これも黒酢?分かりにくいので食酢品質表示基準で確認してみた。
- 黒酢で歯(や骨)が溶けて、酸蝕歯(や骨粗鬆症)になるってホント?
- 壺と甕の違い。世界に類を見ない壺づくり純米黒酢の独特な伝統製法。
その他の論文などは、こちらもご一覧ください
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