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飲み残しによる「残薬」で500億円の経済損失

病院で出された薬の飲み忘れ・飲み残しによる「残薬」が大量にたまり、医療がムダになるばかりでなく、治療効果が上がらず症状が悪化し、さらに薬が増えるといった悪循環が問題化しており、厚生労働省によると、潜在的な残薬は年間500億円分に上り、薬剤師の管理や指導によって400億円分は改善できると推計されている。(2015年11月18日 産経新聞)

「コンプライアンス」から「アドヒアランス」へ?

患者が病院や薬局から出された薬を、医師や薬剤師から受けた指示通りの用法用量を守って服用することを服薬遵守といい、従来は「コンプライアンス」と呼んできたが、近年は同じ服薬遵守を「アドヒアランス」という言葉で表す機会が増えている。

前者はどちらかというと患者にとって受動的な態度。かなり乱暴な言い方をすれば、自らの身体の状態や薬についての理解の有無を問わず、とにかく言われた通り、または薬袋に書かれている通りに服薬していれば良いという、ほぼ医療提供者側の視点での評価であったが、後者は患者の視点で、より能動的な態度を表しており、患者自身が薬の内容や処方意図をある程度以上理解して、積極的に治療参加・服薬遵守をする態度のことを指す。

業界誌における表記や、一部の識者の間においては服薬遵守はコンプライアンスからアドヒアランスへ、という流れになってきているとはいうものの、私が現場医師や薬剤師、そして一般の消費者にインタビューして話を聞いた限りでは現状、アドヒアランス意識の啓蒙が医療者側、患者側ともに浸透しているとは思えない印象だ。

「残薬」が増える原因

  1. 単なる「うっかり」飲み忘れ… 最も多い原因。急な外出などで薬を忘れてしまった、などの理由が挙げられる。
  2. 理解不足と、使用法の複雑さ… 服薬が必要な理由についてきちんと理解していないことにより起こるもの。特に処方薬が複数あった場合、どの病状に対しての薬なのかが分からなくなったり、用法用量が分からなくなってしまったり、「食後」指示の薬を食事を抜いてしまった時の対応が分からない、などの理由で起こる。
  3. 処方薬に対する不安・不信… 服用していても改善しているような気がしない。継続服用や強い薬への抵抗感、副作用の心配などによってコンプライアンスの低下が起こる場合がある。
  4. 経済的理由… 高額な薬を処方されており、保険が適応されていても毎月の自己負担額が大きくなることを理由で服薬を間引くケース。
  5. その他。

飲み忘れに気づいたら

薬を飲み忘れた時、気づいた時点で服用することが基本だが、次回の服用時点までの間隔が極端に短い場合はスキップする。

例えば、血圧を下げる薬(降圧薬)の飲み忘れに気づいた場合。降圧薬は、1 日 1~3回服用することで血圧が管理される。薬の飲み忘れが多いのは昼と夜。飲み忘れた場合は次の表を参考にされたい。くれぐれも 2回分を一度に服用しないこと。

薬のタイプ いつ飲み忘れ? 対応のめやす
1日1回服用 朝食後飲み忘れ 寝るまでに気づいたら服薬
1日2回服用 朝食後飲み忘れ
夕食後飲み忘れ
昼から夕方までに服薬。夕食後の分は就寝前に
寝るまでに気づいたら服薬
1日3回服用 朝食後飲み忘れ
昼食後飲み忘れ
夕食後飲み忘れ
昼までに気づいたら服薬。昼分は夕食後、夕分は就寝前に
夕食までに気づいたら服薬。夕食後の分を就寝前に
寝るまでに気づいたら服薬

一般向け『高血圧治療ガイドライン』解説冊子 「高血圧の話」(https://www.jpnsh.jp/data/jsh2014/jsh2014_gen.pdf)より転載。

患者の本音を聴くことができるポジションは貴重だ

上述のコンプライアンスとアドヒアランスが両立すれば、薬の飲み残しが減ることは自明の理だ。

そのためには医師が処方を決定した時点=診察時と、薬剤師が調剤した薬を渡す時点、2つのタイミングを起点とした患者に対する充分なインフォームド・コンセント(正しい情報を伝えた上での合意、を意味する概念)によって醸成される、医師(病医院)―薬剤師(薬局)―患者、これら3者の相互理解が理想だが、現実なかなか達成されていないことも周知の事実である。

私は現在、保険調剤と一切関わりの無い仕事をしているので、薬局薬剤師が3者互いの分を侵すこと無しに出来うることは何なのかを、全く客観的に思いを巡らせてみると、医師と患者の橋渡し役に徹するという、ごくごく初歩的な結論に達した。

これは私の経験だが、担当した患者と膝を突き合わせて話をしてみると、医師や看護師には面と向かって言えないような内容(治療に対する不満や時には悪口なども)を、薬剤師には遠慮無く話してくれることが多い。

患者にとって医師の存在は大きく、また看護師は医師の仲間という認識がある。その点は薬剤師の立ち位置は「愚痴をこぼす相手」としてはもってこいなのかもしれない。

実はこういったポジショニングこそが患者の本音を引き出せる原動力となり、ある意味では薬剤師の職能を存分に発揮できるチャンスであったり、または薬局薬剤師の特権なのではないかとさえ私は考えている。

もちろん医師に患者の悪口を告げ口することが目的ではなく、医師と患者の意志疎通を円滑にするコーディネーターのような役割を果たすことで、アドヒアランスの推進に寄与できるからだ。

薬剤師が処方箋を、まるでベルトコンベアで流れてきた物のごとく、ただ記載どおりに調剤をして、一通りの説明とともに薬を渡すだけの機械的な作業しかしていないならば、患者の生の声はいつまで経っても聴こえては来ない。

地道に患者との距離を詰めて人間同士の信頼関係を築いていくことが、結果として患者のQOL(Quality of Life=生活の質)の向上や医師たちが行う治療へのサポート、そしてその先では国民医療費の抑制にもつながっていくのではないだろうか。

まとめ

増加し続ける国民医療費は2013年度、とうとう40兆円を超えた。これを国家予算の約30%にあたる社会保障費29兆円に、税金、保険料、自己負担金11兆円を合わせて賄っている、という内容は以前、「医療費40兆円突破の元凶、医療機関へのフリーアクセスを抑制する方法。」に書いた。

また2015年3月27日には日本経済新聞にて医療費抑制の次善の策として、「セルフメディケーション」が取り上げられた。この時の試算では1,500億円の医療費削減を期待されている(参考「【蟻の一穴】セルフメディケーションによる医療費抑制は眼前の急務だ。」)。

もしも、軽症患者(そもそもそれを患者と呼ぶのか?笑)の安易な受診・過剰な服薬をセルフメディケーションの啓蒙で抑え、今回取り上げた残薬の問題も試算通りに解決できれば合計で、500億+1,500億=2,000億円の医療費抑制につながる。

ただ残念ながら、福岡市薬剤師会の「節薬バッグ運動(https://www.fpa.gr.jp/saving-medicine/)」など一部有志の積極的な活動は耳にするものの、どの案も事業推進・問題改善が進んで試算を満たす見通しが立っているとはいえない状況だ。

我々の老後はもちろん、次世代が少なくとも健康に関する財政面に対して不安なく暮らせる未来を実現させるための知恵と行動は、まだ他にもあるので別の機会に書くことにする。

参考記事

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