2016.02.03ブログで一問一答
漢方薬に覚せい剤原料?不完全な情報に誤解をされた方からの質問
写真:漢方薬に広く用いられている生薬=麻黄(マオウ)
この「ブログで一問一答」カテゴリは、読者の皆様からご応募いただいた質問内容に山浦卓がサクサクと回答していく企画です。
今回はまさに本日、2月3日の午前中、世間を騒がせている元プロ野球選手・清原和博容疑者逮捕のニュースを観たと言って、店頭に予約なしで飛び込んで来られたお客様から寄せられた「採れたて新鮮なネタ」に回答させていただきます。
すでに数日前から当薬局の漢方相談予約を入れられたお客様の来局時間が迫っていて、店頭での回答に充分な時間をかけられなかったので、こちらに追記です。
どうでもよいのですが実は私、子供の頃から現在に至るまでプロ野球に興味をもったことが全く無いんです。
さすがにキヨとか番長といったニックネームをもつ、元甲子園のヒーローの存在は知っていましたけど、まさかその方が逮捕されて、しかもその余波が「地味なさざ波」のように当方に打ち寄せられるとは夢にも思いませんでした。
しかしなるほど、消費者が不安になるポイントはまだまだ私の想像を超えてきますね〜。
… ではいってみましょう。
Q. 漢方薬に覚せい剤が入っている?
【質問の要旨】先日の雪で転倒し肩を強打してしまい、整形外科で処方された鎮痛薬を飲むと痛みは和らぐのだが胃腸障害を起こしてしまう。
Dr.に伝えて薬を変更してもらってもやはり胃腸がダメで困っており、漢方薬ならば胃腸も安心だろうと色々と調べてみたら葛根湯という薬にたどり着いた。
有名な薬だし試してみようと知人に話したら、「葛根湯には覚せい剤原料の麻黄が入っているから止めたほうが良い、飲むならば麻黄の少ない葛根湯を飲め」と言われた。
そうしたらちょうど朝からテレビで清原が覚醒剤で逮捕された話題でもちきりになっていて、葛根湯で中毒症状や禁断症状が出たりしないか不安が増大。
実際のところどうなのか?
匿名さん(60代?・男性)
A.
ご本人にもお伝えした回答は次の通り。 葛根湯に含まれる麻黄によって覚せい剤中毒になってしまうような恐れは全くありません。
「麻黄が少ない葛根湯」という表現には戸惑いますが、例えば規定の用量の半量ずつ服用するならば、当然お薬の効果は落ちます。だって症状に届くように用法用量を設計されているんですから。
以下に詳細を書きましょう。
相次ぐ有名タレントの逮捕
せっかくなので、過去に覚せい剤取締法やその他クスリ関連の法律違反で逮捕された有名人をググってみたら、たくさん居すぎて書く気が失せました(泣
- 2001年12月 田代まさし
- 2009年1月と2015年2月 小向美奈子
- 2009年8月 酒井法子
- 2014年5月 CHAGE and ASKAのASKAこと飛鳥涼
- そして昨夜2016年2月2日 清原和博
芸能人や著名人がクスリで捕まるゴシップなどは何も珍しくありませんが、匿名さんの言葉通り、たまたま思い悩んでいた「覚醒剤」というショッキングなキーワードを露骨に押し出された報道を受けて困惑した様子で当薬局に駆け込まれて来ました。
麻黄(マオウ)とは
さて本題に戻します。
匿名さんが問題とされている葛根湯に含まれている麻黄という生薬(成分)ですが、中国東北部やモンゴルの原野、砂地などの乾燥地帯に生育。
日本では薬草園などでみられる草質状の常緑小低木で、高さは30〜70cm。
麻黄は毛穴を開き発汗を促し、体表を開放して寒を散らす(発汗解表)、肺気を楽に巡らせて咳を鎮めて呼吸困難を落ち着かせる(宣肺平喘)、そして小便を促し浮腫みをとる(利水消腫)というはたらきに優れています。
学名はEphedrae herb.といい、エフェドリンというアルカロイド(天然由来の有機化合物)を含んでおり、このエフェドリンから覚せい剤であるメタンフェタミンという化合物を合成することができるので、エフェドリンは覚せい剤原料として扱われています。
うっかりドーピングに注意
またエフェドリンには中枢神経・交感神経の興奮作用があるためドーピング禁止薬物に指定されています。
葛根湯など多くの漢方薬に含まれているだけでなく、市販されているほとんどの風邪薬にも配合されているとてもポピュラーな成分なんですね。
何かしら競技のオフィシャルな大会に出場する予定がある人が風邪薬などを服用している場合は、エフェドリンが含まれていないかどうかを成分表で確認して、もしも含まれていたならば大会3日前までにその医薬品の服用は止めましょう。
濃度10%以下は除外
ところで先ほど、エフェドリンは覚せい剤原料である、と明記しましたが、実は濃度が10%以下のエフェドリンは覚せい剤取締法によって覚せい剤原料から除外されます。
医療用医薬品等の製造に関わる人や、それこそ闇の世界にお住まいの方々以外では、覚せい剤原料となるような10%を超える高濃度の「エフェドリン塩酸塩」や「dl-メチルエフェドリン塩酸塩」に遭遇することはまずありません。
実際、薬局製剤の原料として当薬局で現在仕入れている製品も「dl-メチルエフェドリン塩酸塩散10%[三和]」です。
当然、市販の合成薬のように抽出・精製したエフェドリンやdl-メチルエフェドリンを僅かな量配合した製品や、またはエフェドリンを抽出する前の「麻黄」自体を原料にしている漢方薬に含まれるエフェドリン濃度は非常に低い。
ですから、厚生労働省やそれに準ずる機関の認可を得て流通している製品を規定量で服用される限りは匿名さんの心配されるような事態は起こりえないと考えて結構です。
葛根湯(傷寒論)について
- 組成:葛根12、麻黄9、桂枝6、芍薬6、生姜9、炙甘草6、大棗9
- 効能:辛温解表、発汗、舒筋(筋をほぐす)
- 臨床応用:感冒、鼻かぜ、頭痛、関節痛、肩こり、筋肉痛、手足の痛み・しびれ、発疹、胃腸障害
ということで、匿名さんの今回のような目的で葛根湯を服用するのは間違った選択ではないと思います。
有名人達にもおすすめの、漢方の眠気覚まし
また、エフェドリンのもつ弱い覚醒作用・興奮作用を利用すれば、「軽い眠気ざまし的な用い方」も出来るかもしれませんね。
逮捕された方々も葛根湯あたりで「シャキッと」キメておけば人生を棒に振ることは無かったでしょうに… 。
多くの人に夢を与え、模範となるべきだった人たちの逮捕劇は毎回のことながら非常に残念です。
その他、麻黄を含む漢方薬
- 麻黄湯
- 小青竜湯
- 麻杏甘石湯
- 薏苡仁湯
- 桂馬各半湯
- 麻黄附子細辛湯
- その他
こちらもご一読ください
エフェドリンとメタンフェタミンについて
ついでにエフェドリンとメタンフェタミンについて、ちょっと調べてみました。
塩酸エフェドリン(麻黄に含まれる成分)
塩酸メタンフェタミン(覚せい剤の代表格)
これら2つの有機化合物、たった1つの水酸基(-OH)の有無の違いだけなのに、一般的に覚せい剤と呼ばれているメタンフェタミンはエフェドリンとは比較にならないほどの興奮作用と、強烈な依存性を現します。
当たり前ですが、メタンフェタミンは医師の監督のもとで各種治療に用いられるほかは絶対に使用禁止です。
(上の画像はどちらも、第十六改正日本薬局方 名称データベースからの転載)
おまけ
依存症になって破滅していく過程を分かりやすくアニメ化した動画。
覚せい剤やドラッグに手を出すとこんなに恐ろしいことになるんですよ〜(怖
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