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高度先進医療と車の両輪を成すべき概念とは?

『セルフメディケーション』という言葉をご存知だろうか?たしか2000年頃から耳にする機会は増えた、端的に言えば「自分で自身の健康を管理する」という概念を指す。しかし残念ながら未だに社会に浸透しているとは言いがたい、「くすぶっている」印象の強い言葉でもある。

古くから日本では「病気になったら医者にかかって治してもらう」という固定観念が多数派であったのだが、「誰でもどこでも自由に病医院を受診できる」という先進国の中でも稀有な福祉環境整備である「国民皆保険制度」が1961年に確立されて以来、急を要する病状でも無いのに、自分の懐をあまり痛めず少ない負担額で、漫然と医者通いをする人たちが急増した。

厚労省の発表によれば国民医療費は1990年度に20兆円超、1999年度で30兆円超、2012年度には39兆2,117億円とみるみる膨れ上がっている。早晩間違いなく40兆円を超えるだろう。
2012年度 国民医療費の概況(厚労省発表・PDF)

安易な医者通いが医療費を圧迫。

最新の先進医療にかかる費用なども想像を超える額になる場合があるが、それらを考慮してもこれだけ各保険組合の財政難が叫ばれているにも関わらず一向に歯止めがかからない医療費増大問題の大きな原因の一つが「安易な受診・無用の投薬」であることは当時から変わっていない。

それ以前は少なからず誰もが抱いていた、「なるべく病気になりたくない、病気になる前に予防に励もう、自分の健康は自分で守るべき」という、今回取り上げた「セルフメディケーション」という当たり前でありながらも非常に重要な意識をこの国民皆保険制度がますます薄れさせ、「自分の健康は医師に、かかる費用は保険に」それぞれどっぷりと依存する傾向を増長させてしまったように見える。

今や毎日の血圧、脈拍、呼吸、体温、意識(顔色や気分の変化)といったバイタルサインをはじめ睡眠時間やその質(寝相までも!)などが市販の専用機器はもちろん、スマホ(高機能携帯電話:スマートフォン)やApple Watchに代表されるようなスマートウォッチなどで自動的にトレースすることが可能なヘルスケアアプリもあり、ハード・ソフト共に技術の進歩も目覚ましい。

それだけ「体調変化」に関心をもてるならば、歩数や消費エネルギー、ジョギングやゴルフ、サーフィン、フィットネスといったスポーツ時の記録などをするためだけではなく、適度な運動や食事バランスの検討、禁煙や酒量の調節など積極的に自身や家族の健康管理に務めるべきであり、大切なカラダを医師であろうと医療関係者であろうと「他人」に任せきりにしてはいけない。

医療用医薬品の大衆薬(OTC薬)への転用を促進する動き。

ところで2015年3月27日、日本経済新聞に次のような記事が掲載された。

処方薬を大衆薬に転用しやすく 店頭販売を拡大

厚生労働省は医師の処方箋が必要な医療用医薬品を、ドラッグストアなどの店頭で処方箋なしで買える大衆薬に転用しやすくする。

同じ成分を転用する要望を製薬会社だけでなく、健康保険組合や消費者からも受け付ける仕組みを年内につくる。胃腸薬や点眼薬が候補となる見通し。

医療薬と大衆薬の垣根を下げ、保険適用になっている医療薬を減らし、薬剤費の抑制にもつなげる。

2015/3/27 日本経済新聞

このニュースは「セルフメディケーション」を国民に啓蒙するためにも、地味ながら大変喜ばしいことのように思う。

財政難にあえぐ保険組合は、仮に少数だとしてでも大衆薬に流れる国民が増えればその分医療費の支払いを抑えることが出来るので、まさに医療費圧縮のための小さな一歩となる。

転用する薬は誰にでも分かりやすく、かつ取り扱いやすい花粉症やアレルギーに用いる薬や胃腸薬、点眼剤などが候補に挙がっている。メーカーとしても消費者への認知が広がり売り上げ増を期待出来るようなタイプの薬ならば開発意欲も高まるのではないか。

件の記事によれば厚労省も安全性が確認される薬は承認する方針で、これを受けた日本薬学会は既に大衆薬として安全に利用が可能な成分についての報告をまとめたという。

健康保険組合連合会もこのうち胃薬や点眼剤など6つの成分を要望する方針を打ち出しており、これが通るだけでも1,500億円の保険財政改善が見込めるのだそうだ。

大衆薬転用候補の6成分
症状 薬の種類 成分 主な処方薬名
頻尿 過活動ぼうこう
治療薬
プロピベリン バップフォー
ドライアイ 涙液補助用点眼薬 精製ヒアルロン酸ナトリウム ヒアレイン
胃炎、胸焼け 胃酸分泌抑制薬 オメプラゾール
ランソプラゾール
ラベプラゾール
オメプラール
タケプロン
パリエット
下痢など 過敏性腸症候群
治療薬
ポリカルボフィルカルシウム コロネル

 

次世代に健全な社会を残す。

ここで声を大にして伝えたいことは、「病医院に行かず、我々薬局・薬店で薬を購入するべきだ」などという度量の狭い話では勿論ない。(… と、ここまで書いて調べてみたら過去1年間で、私の薬局におけるOTC薬を含む「医薬品」の売上は、全体の11.9%しか無かった(苦笑))

そんな事よりも限りある保険財源の垂れ流しを止めることが肝要であり、試算とはいえたった6成分を処方薬から大衆薬に転用するだけで1,500億円もの医療費を節約することが出来るのならば、私たち国民一人一人がもっと意識を改めて、無駄な受診・投薬を減らすことで疲弊した保険財政を支えられれば、浮いた額を他の福祉に回すなどして次世代が安心して生活できるような地盤を残すことが出来るのではないか。

今や40兆円に迫る国民医療費のうちの、わずか1,500億円とはいえ国民の意識改革のきっかけになり得るものと信じたい。

追記:医療費40兆円へ=14年度、歯止めかからず-厚労省

医療費40兆円へ=14年度、歯止めかからず-厚労省

厚生労働省は3日、2014年度の医療費動向の調査結果を発表した。

医療保険や公費から支払われた分を集計した概算医療費は、前年度比約7000億円(1.8%)増の39兆9556億円となり、12年連続で過去最高を更新。高齢化の進展や治療方法の高度化で、医療費の増加に歯止めがかかっていない現状が改めて浮き彫りになった。

集計対象外の労災保険適用分などを考慮すると、医療費が40兆円を突破するのは確実とみられる。年末には医療行為や薬の公定価格に当たる診療報酬改定を控えており、16年度予算編成では医療費をめぐる厳しい折衝が行われそうだ。

国民1人当たりの医療費は6000円増の31万4000円。年齢区分別では、75歳未満が21万1000円だったのに対し、後期高齢者に当たる75歳以上は93万1000円に上った。

医療費の内訳は、入院が16兆円と全体の4割を占めた。その他は入院外13兆8000億円、歯科2兆8000億円、調剤7兆2000億円など。

都道府県別の医療費の伸び率は、秋田が0.2%減となった以外は全てプラスに。最も高かったのは千葉で、3.1%だった。

2015/9/3 時事通信社

続編書きました。

医療費40兆円突破の元凶、医療機関へのフリーアクセスを抑制する方法。 

その他、こちらも参考にされたい

※念のため付け加えておくが、「セルフメディケーション」とは医師や薬剤師など医療関係者の判断・意見を無視して好き勝手な健康法を行うということではない。くれぐれも取り違えをされないように。