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2015.02.20メディア出演・掲載など

スギ花粉症のアレルゲン免疫療法が、残念ながら普及しない理由

2014年10月に「シダトレン®スギ花粉舌下液」というスギ花粉症のアレルゲン免疫療法に用いる新薬が鳥居薬品株式会社から発売され、業界の内外で話題になっている。

自分の備忘録の意味も含めて、ざっくりと関連事項をまとめておく。

アレルゲン免疫療法とは

アレルゲン免疫療法とは以前から減感作療法、脱感作療法と呼ばれていた治療法で、アレルギー疾患の患者にとってその原因になる物質(アレルゲン)を低容量からの投与で慣らしながら継続、徐々に濃度や容量を高くしていくことで免疫寛容を誘導して、アレルギー(過剰な反応)を軽減させる治療法である。

また従来、花粉症を含むアレルギー性鼻炎の治療に用いられてきた抗ヒスタミン剤やステロイド薬など、症状を緩和する対症療法に対して、現在医療機関で行える花粉症に対する唯一の根治療法であることが特長だ。

アレルゲン免疫療法には、注射による皮下免疫療法(Subcutaneous Immunotherapy:SCIT)と投与経路を舌下(口腔粘膜)に変更した舌下免疫療法(Sublingual Immunotherapy:SLIT)とがある。

従来は皮下免疫療法(SCIT)が一般的であったが、舌下免疫療法(SLIT)だと注射の痛みや頻回の通院が不要で、しかもアナフィラキシーショック(短時間で現れる激しいアレルギー症状)のような全身性の副作用の発現率が低いことなどから、すでに欧州では後者がアレルギー性鼻炎の標準的な治療として行われている方法で、その効果と安全性が示されている。

※ちなみにアレルゲン免疫療法を開始する時期はスギ花粉の飛散時期が過ぎた6月頃から次に花粉が飛び始める前の12月頃までが適しているとのこと。

皮下免疫療法(SCIT)と舌下免疫療法(SLIT)はどちらが効くのか?

三重県津市で耳鼻咽喉科を開業し、積極的に舌下免疫療法を採用されている医師・湯田厚司先生によれば、SLITの効果についての報告は海外ではあるが、SCITよりも優位であるとの報告はない。

しかしSLITがSCITと同等に効いたとの報告はあるとの由。

舌下免疫療法(SLIT)が根付くかどうか

この治療は最低2年間(推奨は3年間)、毎日1回シダトレンを服用する。SCITよりも安全性が高まるとはいえ通院頻度は大差ない。

今のところ臨床効果としては、全く症状が発現しなくなる人が2〜3割、症状軽減が5〜6割なので計約8割の人に効果が得られる反面、効果が認められない症例が2割程度存在するという。

患者の治療に対する十分な理解とアドヒアランス(患者が積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けること)がSLITを成功させるための必要な条件となる。治療からの脱落を少なくするべく患者のモチベーションの維持をサポートしつつ、副作用のチェックや服薬遵守も確保しなくてはならない。

担当医師だけでなく、これに関わる薬剤師もまた重要な役割を果たすことが期待されるだろうが、生半可な覚悟では患者のサポートは不可能だろう。

友人の耳鼻科医にも話を聞く機会があったのだが、「初回を院内で投与後1時間程度経過観察を要するとか、他の診察を止めてたっぷり説明が必要だとか、一人でやってる狭い診療所にはいろいろハードルが高い。

さらに効果が出るまでは従来のアレルギー治療も必要だし、何より永久免疫が獲得できるわけではないので、かけた費用や労力に対する患者の満足度を計れない」との回答だった。

ところで、舌下免疫療法(SLIT)にかかる費用は?

…と、ここでふと気になった。この治療法に対する原資はどこから? 

技術的に難易度は低くないが保険適応で(対症療法ではなく)根治療法を受けられるといえば理想的ではある。

しかし患者からすれば従来の花粉症治療ならばある一時期だけでよかったのに、年間通して通院する労力と、さらにシダトレン®を毎日服用する必要が生じるのだから、保険適用とはいえ年間に支払う医療費は相当増えるはずだ。

先ほど参考にさせて頂いた湯田厚司先生のサイトを見ると、

ほかの治療や薬の処方がない場合には、医院での治療費と薬局での薬代と合わせて1ヵ月あたり3,000~4,000円の負担(保険適応3割負担の場合)になります。

スギ花粉の飛散時期だけでなく1年を通じて治療をしますので毎月ほぼ同額の治療費となります。また、治療開始前の検査や1年に1~2回の検査が必要となり、その際にも5,000円程度の検査費負担がかかります。

舌下免疫療法を行っていてもスギ花粉が飛散する時期に症状が出る可能性があります。その場合にも症状を抑える薬代などが必要になります。

しかし、舌下免疫療法を行うことにより、スギ花粉飛散期の症状が軽くなれば、これまでよりも症状を抑える薬の量が減る可能性もあります。

…とあった。計算すると年間約5〜6万円程度か。

これを2〜3年…… またはそれ以上? 高いと見るか安いと見るか……

それでは医療機関や保険薬局にかかる負担は?

クレデンシャル2015年3月号でも日本医科大学耳鼻咽喉科学講座の大久保公裕先生の監修でSLITの特集が組まれており、次のような事が書かれていた。

SLITはアレルギーの原因物質を投与することから、アナフィラキシーショックなどの副作用を起こす可能性もあるので、シダトレン®を用いて保険診療する場合、医師には関連学会が主催する講習を受け、さらに鳥居薬品株式会社が提供する「シダトレン適正使用eラーニング」も受講した上でこれに合格し、「受講修了医師」として登録される必要がある。

また所属医療機関はアナフィラキシーショックなどの緊急時対応が可能であることの確認および登録が必要。それに伴い、処方箋を応需する保険薬局(薬剤部)は、処方医および処方医療機関の登録を確認することが求められる。

医院、薬局ともに受け入れの準備だけでこれだけの条件をクリアした上、さらに一般患者と比べて個々の患者のケア負担が増すことは明らかなのに、私が調べた限りではシダトレン®の処方に対する特別加算は見当たらない。

その出処が保険であるにしろ個人の財布にしろ金銭的なサポートが無ければ、この治療法に技術として賛同する声は上がっても、残念ながら現場で支持する当事者(先ずは花粉症患者、そして担当医師や医療機関・薬局薬剤師など)はそれほど増えないだろう。

したがって今のままの体制では舌下免疫療法は、一部の学者やメーカーが期待するほどは普及しないのではないかと思う。惜しい。いや惜しいというより勿体無い。

今や国民病とまで言われている花粉症に対する夢の根治療法にこそ、国は大きな予算をかけてバックアップしても良いのではないのか?と、自身も30年来患っている、筋金入りの花粉症患者の身として全くもって勝手な主張を残して今日は筆を置くことにする。

花粉症、アレルギー疾患に関しては、以下も参考にしてください

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