日本黒酢研究会の第5回学術集会が昨日開催され、今年も当薬局を代表して、薬局長の山浦卓が参加して来ました。

過去の学術研究会の様子はこちら。

第1回学術集会の模様はこちらにありました。(別窓表示)

〜第5回学術研究会〜
日時:2018年6月22日(金)13:00〜17:20
会場:早稲田大学 日本橋キャンパス 大ホール

開会の挨拶

早稲田大学研究院 教授で、日本黒酢研究会会長の矢澤一良先生が開会の宣言を。

「黒酢の科学的エビデンスに基づく基礎研究・臨床研究を本研究会を通じて加速することが国民の健康に寄与し、また国力の増大に繋がる」とのお考えに賛同しました。

<招待講演Ⅰ>機能性食品表示における中小企業者から見たビジネス展開〜機能性食品表示制度の現状と課題〜

有限会社健康栄養評価センター 代表取締役 柿野賢一先生によるご講演。座長は早稲田大学の矢澤一良先生。

  • 機能性食品表示制度施行から3年経過し、現在の届出受理品目数は1,300品目超。
  • 中小企業・小規模事業者にチャンスを与えることを本来の目的に施行された制度であるにも関わらず、施行当初は有名企業ばかりが先を争って届け出ていた。
  • 本制度はトクホ制度を長年活用してきた企業であっても易しくはなく、中小企業や小規模事業者においては本制度を熟知し、適合するために必要な情報整理等に対応できる人材がいないのが実情である。
  • つまりは「彼らに対するチャンスは事実上閉ざされたまま」である。
  • 企業が求める機能性食品表示制度とは何か。中小企業や小規模事業者に本当のチャンスを与える支援とは何かについて説かれる。

<学術講演>『鹿児島の壷づくり黒酢』醸造に関わる酢酸菌―「蔵つき酵母」ならぬ「壷つき酢酸菌」はいるのか?―

東京農業大学 応用生物科学部醸造科学科 教授 貝沼章子先生によるご講演。座長は九州大学大学院 農学研究院 生物機能科学部門 教授 佐藤匡央先生。

目的

  • 鹿児島の壷づくり黒酢は江戸時代より伝わる、現在普及している食酢醸造法とは異なる伝統的な製法で造られる。陶器製の壷の中に混ぜ麹、蒸し米、地下水、振り麹を順に仕込み、露天に静置しておく。
  • 麹菌以外の微生物添加を一切行わないにも関わらず、その後壷の中で糖化・アルコール発酵・酢酸発酵が自然に進行して酢が生成する。このような一連の発酵過程には、麹菌以外に乳酸菌・酵母・酢酸菌の関与が必要だが、このうち乳酸菌と酵母については仕込み時に用いる麹由来であることが既に明らかになっている。
  • しかし酢酸菌については謎が多く、麹菌からは検出されない一方で壷の内壁より検出されており、壷中に棲息し、環境が至適化されると増殖して酢酸発酵を行うというモデルが考えられている。
  • 本研究では坂元醸造(株)の酢酸発酵中の複数の壷より酢酸菌を分離し、ゲノム解析を行い、同社の黒酢醸造を支えている酢酸菌について精密な調査を行った。つまり清酒における「蔵つき酵母」のような「蔵つき酢酸菌」が存在するのかについての解析・考察を説かれる。

総括

引き続き検討を進めたいとの由。

<学術講演>脂肪細胞における熱産生と食品成分の機能

神奈川工科大学 応用バイオ科学科 助教 田中理恵子先生によるご講演。座長は北海道医療大学 薬学部 教授の柴山良彦先生。

緒言

  • 脂肪細胞にはエネルギーを貯蔵する白色脂肪細胞と、脱共益タンパク質UCP1を介して熱を賛成する褐色脂肪細胞の存在が認められており、両者は異なる前駆細胞により分化するが、2012年に白色細胞と共通の前駆細胞からも褐色脂肪細胞と同様の機能を有する細胞が報告され、ベージュ脂肪細胞と命名された。
  • 鹿児島県内において伝統的製法で生産される壺造り米黒酢は、抗肥満効果や抗糖尿病効果を有することが報告されている。
  • この黒酢成分がPGC-1αの遺伝子発現を誘導するとの報告から、黒酢が熱産生型脂肪細胞の分化と機能に与える影響について検討した。

結果と考察

  • PGD-1αとUCP1の遺伝子発現量とタンパク質発現量は、黒酢の添加によって有意に増加した。
  • 黒酢存在下で分化誘導した細胞において、脂肪滴の小型化とミトコンドリア量の増加が観察された。
  • 黒酢を添加した細胞ではPGC-1αの核内移行が更新しており、PGC-1αの活性化が促進している可能性が推察された。
  • そこでPGC-1αの活性化因子となる脱アセチル化酵素やリン酸化酵素の遺伝的発現を定量した結果、ERK2やp38 MAPK、S6K等のリン酸化酵素の発現が有意に増加。
  • これらの結果から、壺造り黒酢に含まれる成分がPGC-1αの活性化を介して、脂肪細胞における熱産生を促進する可能性が示唆された。

その他

  • 今回の実験では凍結乾燥により酢酸を除去した黒酢を用いている。
  • 2016年5月に開催された「第3回 日本黒酢研究会」にて東京農業大学 生物産業学部 食品香粧学科 辻野義雄先生が発見・発表された、香醋の健康機能を示す有効成分「フレグライド1」が少量ながらも黒酢に含有されていたことが判明。

<学術講演>黒酢摂取が持久的トレーニングの効果に与える影響―第2報―

東京大学大学院 総合文化研究科 身体運動科学 教授 八田秀雄先生によるご講演。座長は熊本保健科学大学保健科学部 リハビリテーション学科 准教授 申敏哲(シン ミンチョル)先生。

今回は黒酢摂取がマウスの安静時や運動時のエネルギー代謝に与える影響について、運動科学の観点からそれぞれのタイミングでの糖代謝と脂質代謝を中心に、持久的トレーニングの効果に与える影響も含めて検討された研究の続報でした。(第1報はこちら)

メスマウスによる検討

  • メスのICRマウスを用いて実験。3週間高脂肪食を摂取させ黒酢または水を投与した条件で、持久的トレーニング(投与30分後に25m/minで60分間走)を週5回行った。
  • 各群7匹のマウス。最終トレーニング終了24時間後に組織を採取。
  • 結果:水のみ経口投与・運動なしの対照群との比較を検討した結果、マウスの体重、内臓脂肪量はトレーニングによって低下する傾向が見られるが、黒酢摂取の影響は認められなかった。
  • 骨格筋の酸化能力の指標であるクエン酸合成酵素(CS)活性はトレーニングにより上昇した。
  • 脂質酸化に関連するβ-HAD活性については、足底筋で黒酢摂取トレーニング群が安静群に比較して有意に上昇した。

オスマウスによる検討

  • オスのICRマウスを用いて、3週間高脂肪食を摂取させ黒酢または水を投与した条件で、安静または持久的トレーニング(投与30分後に25m/minで30分間走)を週5回行った。
  • 各群7匹のマウス。最終トレーニング終了24時間後に組織を採取。
  • 結果:各群の体重には差が見られなかった。
  • 脂肪量については黒酢摂取トレーニング群で対照群よりも少ない傾向が認められたが、水摂取トレーニング群では対照群との間に差は認められなかった。
  • またトレーニングの運動直後における血中乳酸濃度が黒酢摂取トレーニング群で水摂取トレーニング群よりも低く、2週目については有意差が見られた。
  • 骨格筋のミトコンドリア酵素活性については、足底筋でトレーニング効果が認められたが、黒酢摂取の影響はみられなかった。

このようにメスの黒酢摂取トレーニングの条件では筋の脂肪酸化活性が上昇した。また、オスの持久的トレーニング時間を30分と短くした条件で、黒酢摂取を加えることで内臓脂肪が少なくなる傾向にあり、このことも運動時の脂質代謝が亢進して、糖代謝が低下している可能性が考えられる。

そこで黒酢摂取を行うことで、運動時や運動後の脂質代謝が亢進している可能性が示唆された。

<学術講演>福山黒酢の地球温暖化による生産不安定化に対抗する1つのアイデア

近畿大学 生物理工学部 食品安全工学科 教授 東慶直明先生によるご講演。座長は鹿児島大学 農学部 食料生命科学科 食品分子機能学 教授 候徳興(こう のりおき)先生。

東先生は、今後80年間で日本各地の年平均気温が4℃程度上がるという気象庁の発表を起点として、1997年に採択された京都議定書以来、世界的な動きとなっているにもかかわらず、炭素循環社会の構築や自然エネルギーの有効活用などによる地球温暖化制御が推進しているとは言い難い現状では、世界中の天然発酵の産業は大きなダメージを受けるものと推測し、壺造り黒酢の天然発酵における、微生物叢を耐熱性微生物群によって置き換えることで発酵上限温度を上昇させ、異常気象にも強靭な醸造法の研究開発を開始されました。

鹿児島市と月別平均気温差が約2℃ある和歌山市に壺を持ち込み、醸造実験。

まとめより抜粋。

黒酢醸造に必要な微生物叢を理解し、高温醸造に律速となる微生物を高温耐性(類縁・育種)菌株に置き換える。

  • 酢酸菌の置換は可能であることが示唆された。
  • 酵母や乳酸菌を分離し、温度耐性を調べる。

<学術講演>鹿児島県垂水市高齢者の酢酸摂取状況と健康の関係

鹿児島大学大学院 共同獣医学研究科 准教授 叶内宏明先生によるご講演。座長は常葉大学 健康科学部 教授の久保明先生。

  • 【目的】食酢摂取が血圧降下作用を示すことがヒト介入試験で報告されているが、横断的に食酢の摂取状況と血圧の関係を報告した論文は過去にないことから、本研究では垂水市在住の高齢者を対象に食酢および黒酢摂取状況と血圧の関係を横断的に解析することを目的とした。
  • 【方法】垂水市に在住する65歳以上に研究への参加を呼びかけ、380名(男性97名 平均75歳、女性283名 平均76歳)が参加した。食事調査は簡易型自記式食事歴法質問票(BDHQ)を用いた。食酢の摂取状況は主食、主菜、副菜、サラダ、付け合せに利用した頻度、また黒酢飲料利用の有無と摂取頻度を調査。身長、体重および血圧の測定ならびに医師による問診が行われた。
  • 【結果】本地域男性の63%、女性の72%が酢を好むと回答。食酢は副菜およびサラダとして利用する頻度が高く、週に2−3回以上食べている割合は男性63%、女性62%であった。副菜摂取頻度と各栄養素の摂取に関連はなかったが、サラダとして食酢を多く摂取する群は食物繊維の摂取量が多かった。食酢の摂取頻度と食塩摂取に関係は認められなかった。血圧との関係では、男性において食酢を副菜として摂取する頻度が高くなるほど拡張期血圧が低くなった。週に2回以上黒酢飲料を利用する割合は男性75%、女性52%であった。収縮期血圧において男性では黒酢飲料を全く利用しなかった群(142±18 mmHg)に比べて、利用している群(132±14 mmHg)で有意に低かった。女性では黒酢飲料を全く利用しない群(136±16 mmHg)と利用している群(135±15 mmHg)の間に差は認められなかった。
  • 【結論】男性では副菜摂取頻度もしくは黒酢飲料を摂取した群において血圧が低いこととの関係が認められた。

<学術講演>神経損傷に対する黒酢の効果

熊本保健科学大学 保健科学部 リハビリテーション学科 准教授 申敏哲(シン ミンチョル)先生によるご講演。座長は鹿児島大学大学院 共同獣医学研究科 准教授 叶内宏明先生。

【目的】

  • 黒酢による様々な県有報告がある中で、黒酢が神経損傷に与える効果については未だ明確にされていません。
  • そこで本研究では、脳出血モデルラット(ICH)と坐骨神経損傷モデルラット(SNI)を利用し、黒酢の摂取が神経損傷に与える影響について行動学的手法および分子生物学的手法を用いて検討されました。

【まとめ】

  1. 脳出血による運動パフォーマンスの低下に対し黒酢投与群で若干のパフォーマンス改善が見られたが有意差はなかった。
  2. 脳出血による上肢握力低下に対しては黒酢投与群で上肢握力の有意な改善が見られた。
  3. 出血による損傷範囲においては黒酢投与群で有意な損傷範囲の縮小が見られた。
  4. c-Fosとcaspase-3の発現に関する検討でも黒酢投与群で有意なc-Fosとcaspase-3の発現減少がみられた。
  5. 酸化ストレスと抗酸化力の検討では黒酢投与群で有意な酸化ストレスの抑制、抗酸化力の有意な増加が見られた。
  6. 坐骨神経損傷モデルラット(SNI)を用いた末梢神経損傷に対し、黒酢投与群でRotarodテストでの若干の時間延長、Sciatic Function Index(SFI)値の若干の改善が見られたが、有意差はなかった。
  7. 運動を併用した黒酢投与群では、トレッドミルランニング時間の有意な延長がみられた。

【結論】

  • 黒酢の摂取は酸化ストレスの抑制、抗酸化力の増加を引き起こし、脳出血損傷部位の細胞死因子(c-Fos、caspase-3)の発現を減少させることで、細胞死を抑制させた可能性が示唆された。
  • この細胞死の抑制は脳出血損傷範囲の縮小を引き起こし、運動パフォーマンスの改善、上肢握力低下の改善など運動機能低下からの回復も促進させた可能性も示唆された。
  • また末梢神経損傷による運動パフォーマンスの低下に対しては、運動と併用した黒酢の摂取が、より運動パフォーマンスの改善に有効的であることが示唆された。

学会に参加して

今年の日本黒酢研究会も魅力的な演題ばかりでした。

先生方の発表は示唆に富み、質疑応答もとても参考になりました。

とりわけ東先生の地球温暖化と黒酢の醸造という切り口での研究は興味深く、高温耐性菌株による高温環境下での醸造で黒酢の機能性を再現できるかどうかは別として、とても新鮮な視点だと感じました。

実質的に食の機能性をもった素材については、

  1. メーカーは高品質の製品を安定供給する。
  2. これをサンプルとして、学者がそれぞれの専門分野からの視点でアカデミックな研究・発表を行い、
  3. 薬剤師その他、市井の専門家が情報をわかり易く消費者に伝え、また消費者の生の声をフィードバックする。

このサイクルを丁寧に行っていけば、国民の健康づくりに食べ物を適切に役立てるための近道を確立出来るものと考えています。

日本黒酢研究会のようなコンパクトな学会ならではの情報収集しやすさから、新しいアイデア・ヒントも得られてまた面白いことが出来そうです。

具体的なカタチになれば、随時お知らせしていきますので、乞うご期待。

くろずについてはこちらの記事も参考にしてください。

その他の論文などは、こちらもご一覧ください